《くらしとお金の学校・ネット講義》
● サブプライムローン問題を考える――バブル、終わりの始まり
正会員 村井英一

7月中旬から、アメリカのサブプライムローンの延滞が増えたということをきっかけに世界各国の株式相場が急落し、為替相場も大きく変動しました。にわかにサブプライムローンというものが注目されるようになり、マスコミ等でも報じられるようになりました。みなさんもいろいろな報道で目にされているかと思いますが、ここで改めてこの問題を振り返り、自分なりの見解を述べさせていただきたいと思います。一般に言われているのとは違う見方もありますので、認識不足についてはご指摘いただければ幸いです。
◆ サブプライムローン、利用者は低所得者層ばかりではない
まず、サブプライムローンについて確認します。もう既にご存知の方も多いかと思いますが、お付きあいください。
サブプライムローンは、アメリカの住宅ローンのひとつで、低所得者やカードの延滞者向けのものです。"サブ"というからには、サブでないものもあり、それが「プライムローン」です。"プライム"は「最高の」というような意味ですが、銀行から融資を受ける一般的な住宅ローンは、このプライムローンになります。ですから、サブプライムローンは銀行などで融資を断られる低所得者や延滞暦のある人などを対象に、住宅金融の会社が扱っています。融資する側からすると、延滞リスクが高いのですが、その分高い金利を取ります。ただ、初めの2年はプライムローンと変わらない金利となっており、3年目から金利が上昇するようになっています。最近では、当初の2年は6%程度、3年目からは10%超となるようです。
昨年の暮れまで、アメリカの不動産価格は上昇を続けていました。そのため、不動産を購入する人が増え、それは低所得者層まで広がりました。サブプライムローンを組んでいても、当初の2年のうちに購入した不動産の価格が上昇し、担保価値が上がるとプライムローンへの借り換えが出来たからです。不動産価格の上昇が続いていましたので、多少無理をしてでも早く購入しておかないと、という危機意識が人々に広がり、サブプライムローンを利用する人が増えました。また、もし万が一返済が出来なくなっても、上昇している不動産を売却すれば回収不能とならずに済みますので、住宅金融会社も積極的に融資を広げました。低所得層というと、日本円で言えば年収200万円程度の人です。さらに、まだロクに英語も読めないような移民にも融資は広がりました。
さらに、これはあまり報道されていないのですが、プライムローンを組めるような所得のある人もサブプライムローンを使うようになっていた点があります。なぜわざわざ、金利の高くなるサブプライムローンを使うのかというと、"融資が早い"からです。懇意にしている不動産業者から連絡が入ります。
「いい物件が出ましたよ」
「そう!じゃあ頼むよ」
現地を確認もせずに不動産投資をする人が増えました。もちろん、値上がり益を狙うためです。不動産"投機"と言っていいでしょう。このような時に、書類を揃えたり銀行の審査を待っていたのでは間に合いません。サブプライムローンならば、審査らしい審査もなく、すぐに融資がなされます。こうして、プライムローンを使えるにもかかわらず、サブプライムローンを使う人も多くなったのです。
サブプライムローンの利用者はけっして低所得者層ばかりではないのです。住宅ローンに占めるサブプライムローンの割合は、2002年に7%だったのが、現在は15%にまで上昇しました。
いずれにしろ、前提となっているのは"不動産価格の上昇"です。ITバブル崩壊後、アメリカだけでなく、世界全体が低金利傾向となり、だぶついた資金が株式、不動産へ流れ込みました。そのため世界全体で株式、不動産の大きな上昇となりました。年率で20〜30%は当たり前、さらに上昇するものもありました。資金がだぶつく(過剰流動性といいます)と、株式や不動産といった資産の価格が大きく上昇します。いわゆる"バブル"です。特にアメリカは景気の拡大と相まって株式、不動産価格ともに上昇が続きました。
こうなるとこつこつ働くよりも、投資する方が収益を上げるようになります。アメリカで出版された『金持ち父さん 貧乏父さん』という本が話題となりましたが、これなどはその先駆けです。もっともこの本では、投資を勧めてはいましたが、投機を勧めていたわけではありません。ただ、資産価格の上昇が続くと、投資も投機に変わってくるようになります。人々は値上がりを確信するようになります。
しかし、このような状態がいつまでも続くものではないことは、みなさんおわかりでしょう。アメリカの不動産価格の上昇は昨年の暮れに止まりました。値下がりしないまでも、上昇が止まれば、それだけでサブプライムローンを利用している人の前提が崩れます。
サブプライムローンの延滞率は2005年には10%だったのが、最近は15%にまで上昇しています。この間、プライムローンの延滞率はそれほど変わっていませんので、やはり不動産価格の上昇を前提とした住宅購入に問題があったと言わざるをえません。"バブルの崩壊"と言えるでしょう。
この問題がアメリカ経済にどの程度の影響を及ぼすかは、現時点ではまだはっきりしません。しかし、もともと今まで好景気が続いており、ある程度の調整があってもおかしくない状況でしたので、不動産業界だけに留まらず、アメリカの景気全体に影響が出ることは避けられないでしょう。
◆ 住宅ローン担保証券、日本のバブルとはここがちがう
この過程、まるでかつて日本が歩んできた道のようですね。
しかし、1990年前後の日本のバブルと異なる点もあります。それは、「住宅ローン担保証券」によって、被害が世界中に広がったことです。金融の分野でこの問題が大きな騒ぎとなったのは、むしろヨーロッパで影響が出たことがきっかけでした。この住宅ローン担保証券は、かつての日本のバブルの頃はそれほど広く使われているものではありませんでした。金融の技術が発展し、住宅ローンを証券化して売買するようになったのです。
この住宅ローン担保証券というのは、住宅ローン(サブプライムローンに限らず)を元に発行される金融形態です。住宅金融会社は、住宅ローンを担保にして証券を発行し、それを売却して融資資金を回収します。住宅ローンの金利がこの担保証券の利金となり、返済代金は担保証券の償還に当てられます。
お金の出し手は担保証券の購入者であり、住宅金融会社は自己資金を使いません。手数料を得るだけですが、延滞で資金が回収できないというリスクがありません。一方、担保証券の購入者は、資金回収のリスク(信用リスク)は負うものの、その分高い金利を手にすることが出来ます。金融機関が窓口となっているものの、実際には住宅金融公庫が資金を出している、日本の「フラット35」と基本的に同じような仕組みです。
これらの住宅ローン担保証券は、一般に国債などよりも金利が高く、有効な運用手段として近年世界中に広まりました。特にサブプライムローンを元にして発行された住宅ローン担保証券は利回りが高く、アメリカはもとよりヨーロッパの金融機関、ファンドが手を出していたのでした。また、この証券を購入しているファンドに出資したり、さらにそれを元に証券が発行されたりと、世界中の金融機関、ファンドが幾重にもつながり、影響を及ぼすようになっていました。
そこに起きたのが、サブプライムローンの延滞率上昇です。アメリカの住宅問題だと思われていたところ、フランスのファンドが解約を停止し、人々の不安が一挙に広がりました。「住宅ローン担保証券によって、世界中の金融機関がつながっている。どこで信用不安が起こるかわからない」
と、人々は疑心暗鬼になり、イギリスでは銀行の取り付け騒ぎまで起きました。世界中の株価が暴落し、為替も大きく動きました。
このため、
「住宅ローン担保証券のおかげでリスクの所在がはっきりしなくなった。世界中に悪影響が広がってしまった。」
との批判的な論調が多くのマスコミで語られています。
◆ メリットを認識することも大切
しかし、この住宅ローン担保証券、悪いことばかりではありません。メリットもあります。それは、"リスクを分散する"ということです。住宅ローン担保証券が発行され、世界中の金融機関、ファンドがそれを保有することで、多くの人々が少しずつ信用リスクを負担するようになっているのです。
もしも、この証券がなく住宅金融会社が全て自己資金で融資していたらどうなるでしょう。それがかつてのバブル前後の日本でした。"住専"といわれた住宅金融専門会社のほとんどが破綻し、その処理に多額の公的資金が投入されました。さらに、住専に融資していた銀行も大きな痛手を受け、その不良債権処理に10年以上の歳月を要しました。あの頃、今のように金融技術が発展していたら、日本のバブル崩壊の影響は海外にも及んだでしょうが、あれほどまでに大きく長い期間の不況は経験せずにすんだことでしょう。
アメリカのサブプライムローンの悪影響は、住宅ローン担保証券によって、世界中に広まりました。しかしこの証券によって、多くの機関、人々が少しずつ負担を負うことによって、被害はそれほど大きくならずにすむでしょう。証券の格付けが甘かったなどの問題はありますが、住宅ローン担保証券は経済の悪影響を抑えるのに貢献していることを忘れてはいけません。
◆ 終わりの始まり
今まで長々と書いてきたことをまとめます。これは私の予想です。
1. 今のサブプライムローン問題は、アメリカがバブルの状況になっていることを原因として起きています。
2. この問題の影響は、一時的なものに留まらず、アメリカの景気にまで及ぶと思います。ヨーロッパは、現在の環境がよいのでそれほどの影響はないでしょう。
3. ただ、日本のバブル崩壊のような状況にはならないでしょう。たとえ景気後退と言われるような状況になったとしても、それほど深刻なものにはならないと考えています。
私がむしろ心配しているのは、中国です。
中国の株価指数は、この1年で3倍、2年で5倍にも上昇しています。不動産もしかりです。中国当局は、自国通貨である「元」の上昇を抑えるために、大量に「ドル買い、元売り」をしています。そのため、大量の元が市中に出回り、そのだぶついた資金が株や不動産の価格を押し上げているのです。1980年代の日本と全く同じことをしています。過剰流動性が高まると、株価や不動産価格が高騰するという現象が、今度は中国で起きているのです。
バブル当時、「日本は狭いから不動産価格が上昇しやすい」と言われたものですが、そうではないことが最近のアメリカや中国が証明してくれています。ただ、アメリカはリスク分散の工夫がなされています。しかし、中国はどうでしょう。新興国の発展はこれからも続くでしょう。しかし、バブルについては必ず終わりが来るものです。「終わりの始まり」がいつになるのかは定かではありませんが。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
(2007.10.04)
『くらかね通信』No.122 : 2007.10.04 号より転載
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